「天然放射能は進化的適応によって濃縮されないから安全

、人工放射能は濃縮されるから危険」みたいな話が出回っているそうで、それがエクストリームな受容のされ方をしてしまうと「だからカリウム40が人体内に存在しているなんてあり得ない、非科学的」となってしまうようです。とりあえずネタ元は市川定夫という方で以下のものが挙げられているそうです。あ、一つお断りしておきますが、自分は化学系大学院生できくまこシンパです。ぶっちゃけ物理学と数学と生物学と天文学と文学と社会学と法学と経済学とあと色々に詳しくないです。核物理とかSTSとか専門外もいいとこ。

http://www47.atwiki.jp/goyo-gakusha/pages/215.html
カリウム40といったものが、昔から天然にあったので、全生物は、そういった危険なものは蓄えない、という形で適応している。生物の進化と適応の過程で遭遇してきたものに対しては、それをくぐり抜けてきたものしか生き残っていないという形で、結果として適応しており、自然の放射性物質を濃縮して蓄えるという生物は一つもいない。ところがヨウ素。天然のヨウ素はすべて非放射性。放射能の無いヨウ素だから生物は安心して何百万倍も濃縮したし、人間は安心して甲状腺に集めて利用しているわけです。安全だったからそれは優れた性質になり得た。その安全だった元素に放射性の核種をつくったらダメなんです。濃縮するものを考えてみると、いままでその元素には放射性がなかった、そういう元素に放射性のものを作ったときに濃縮する。セシウムも、天然のものは非放射性ですから、入ってきても何も怖いことはない、勝手に入れば良い。ところが、放射性のセシウムを原子炉が作り出すものだから、ジワジワ蓄えられてしまう。ストロンチウム90もそうです。天然のストロンチウムは非放射性でカルシウムに性質が似ていてカルシウムのあるところ(骨)にストロンチウムは全部いつでも入って来ます。天然のストロンチウムが入ってきてもいっこうに構わない、非放射性ですから。
ところが原子炉の中で、ストロンチウム90、放射性のストロンチウムを作ると、それが骨の中に入ってしまう。ストロンチウム90の半減期は28年ですから、0歳のときに骨の中に入ってしまえば、その人は28歳になっても骨の中にまだ半分残っていることになる。中から被曝を与える。
ストロンチウムが入ると、白血病や骨髄腫になりやすいというのは、それなんです。骨に入って至近距離から骨髄に放射線を照射しているわけですから。
これまでその元素に放射性がなかったものに放射性のものを作ったときに、濃縮する。それが人工放射能の濃縮。天然の放射能に濃縮するものはないというのは適応の結果。

ていうか御用学者wikiって充実してますね、反原発学者のリストもあるし動画の文字起こしまでしてくださると。マジありがとうございます。御用学者wikiたんの靴裏ペロペロ。あ、ワタクシ実際に動画見て文字起こしに間違いがあるかとか誇張は無いのかとか一切チェックしてませんのであしからずご了承ください。
んで、肝心の内容ですが、実はそんなに的外れなこと仰ってないと思うんですよー白状しますと馬鹿にする気満々で読んでたんですけど。ちょっとだけ突っ込みたい所はあるんですが、どちらかというと受け手の方の問題のような気がするんですよ。以下に長ったらしく書きます。

カリウムについて

ツッコミどころ

としては、生物がカリウムを蓄えないのは放射性核種に適応した結果と言い切るのはどうか、というところでしょうか。カリウムみたいにイオンでしか存在しないような、水溶性の高いものをため込むのはちと大変でしょう(水溶性ビタミンは蓄えられないから摂りすぎてもいみないけどコンスタントに摂りましょー、脂溶性ビタミンは蓄えられるので摂りすぎには注意しましょーみたいな)し、周囲にいくらでもあるから貯める必要も無かっただけではないでしょうか。あと、完全に推測なんですが「カリウムを濃縮しない」を、「放射性同位体(K40)とその他(K39)とより分けて無害な後者だけを吸収する」と解釈してしまった人もいるのではないでしょうか。それはいくら何でも無理だと思うんですが、それの根拠は持ち合わせてませんわたし。どなたか、カリウムじゃなくてもとにかく同位体レベルで元素選別できる生きものの事例ご存じなら教えてください。まあHCNPS辺りは絶望的なんで何かの金属イオンの類いになると思うんですが、とにかく元素がなんだろうとたぶんそれだけでノーベル賞モノなんじゃないすか、重溶媒の製造コスト下げられるんじゃね?すごくね?セミコロンさんとか何かご存じじゃね?みたいな。

しんかでてきおーな話

えー脱線が過ぎたのでカリウムに話しを戻します。とにかく、ある程度の量のカリウムが生物には必須で、生体内における存在量をコントロールする、もっと言うならば一定に保つ必要はあるので、そうする為の仕組みを生物は備えています(所謂ホメオスタシスって奴ですね。動的平衡とかいう独自用語じゃなくて定常状態と正しく呼んであげてください)んで、体内で一定というのがミソで、体内K40存在量が一定なおかつK40半減期は億年単位、ということは常に体内には自然界と同じ存在比率でカリウム40が存在しているわけで、その分は宇宙線による外部被曝と同様に黙っていても喰らってしまう内部被曝な訳ですね。その所与の条件の下で我々イキモノは生きており、それが致命的となるようなら生きていけない、その意味においては「進化的適応」というのは間違いでは無いとする立場もありなんでしょうが、繰り返しますが、生きものはそれを前提として存在しているのだ、と言った方がより正確なのでは無いでしょうか。逆に、K40の存在比率が遺伝子による再生産システムに影響するほどのものであったなら、生命の有り様は今現在我々が知るものとは大きく様相を違えたものとなったのでしょう。まあ何事にも限度はありますが、その条件ではその条件で生きていけるナマモノが発生したはずですよ。そいつらが原発作れるかどうかは別として。
えー、だいぶグダグダになってきたので僕の見解まとめますと、
・K40は濃縮しませんが常に体内に一定量存在し、その分の内部被曝は常に受けてます
・ですが、それは不可避であるが故にそれを折り込み済みで僕ら生きてます
その辺から考えますに、「天然放射能は進化で適応したから安全」というのは・・・とかく大雑把な言い方なので色々と突っ込まれるんじゃないでしょうか。というかいまいち意味が分からないです。むりやり正しいと解釈することはできなく無いとは思いますが、そうすることにいまいち意味を見いだせません。内部被曝の話に限ってしまうなら、「天然放射性核種(特にK40)による被曝については、生物はそれを前提として存続してきた」ぐらいなら首肯していただけるのではないでしょうか。ああ、この節は天然放射性核種といいながらラドン(222と220だっけ)話全然してないですがもういいや。C14はすっこんでろもっと13増やせよ炭素は。すみません独り言ですカーボンNMR測定セットしてきます一晩かかるんですアレ。

あと、人工放射性核種は危険、について

引用部を見るに、実はそんなにおかしいこと言ってないと思うんですよ。ざっくりと危険性を伝える、という趣旨で読めば。まあ量的な話が全く無いのはひっかかりを感じますけど、その辺のデータは本来は原発推進側が出さなければならないですしね、反原発のテキストとして科学的に大きな瑕疵があるものとは思いません。
確かに「天然だから安全、人工だから危険」と言われるとそれは単純化しすぎだ、と即答しますが、実際問題として、「自然環境には存在しないからこその危険性」というものは確かにヨウ素131やストロンチウム90については確かに厳として存在しますよね。ヨウ素131リッチな環境では甲状腺は機能できないし、ストロンチウム90リッチな環境では骨じゃなくて腸が造血機能を担っていてもおかしくないでしょうし、「人工」の意味を「自然環境では考えられないくらい多量の、人為的にもたらされた」ぐらいまでユルーく拡張してしまうならイタイイタイ病は「人工」カドミウムによって引き起こされた、とか言ってしまってもいいのかもしれません、あくまで言葉遊びとしては。(まあ、自分は絶対にそういう書き方しませんが、詳しくない人がそういう言い方をするのを殊更咎め立てるのは不毛だよね、とは思います)

まとめというか雑感

というわけで、引用部の市川センセの主張については「ツッコミどころあるけど全体的にはそんなにおかしくないんじゃね?問題はその受容のされ方なんじゃ?」というのが僕の印象です。そしてそっちの方がより事態は深刻です。同じテキスト読んでももう世界観闘争が生じかねないレベルの断絶が生じてしまう訳ですから。というか、この引用部だけ読んで「天然は濃縮蓄積しないから安全、人工は濃縮蓄積するから危険」とまとまられたらもうどうすりゃいいんだと思います。受け手が馬鹿なせい、と言ったら「欠如モデル」の一言でゲームオーバーですし。

そろそろ「放射能」やめません?

とりあえず、途方に暮れたままで終わるのもアレなのでひとつ提言なのですが。
以前から原発のインシデントを報じる際に「放射能漏れ」という表記が用いられ、その度にモヒカン共のツッコミを受けながらも定着し、震災以降は突っ込む声すら絶えてしまったことは承知なのですが、それでもやっぱり放射性物質放射能とは区別して欲しいです。天然放射能と人工放射能の差異を云々する方が、マジで放射線そのものの危険性に差があると思っているのか(むろん放射線の質・量共に核種ごとに違いはありますが)、あるいは放射性核種の化学的生物学的挙動の違いを問題にしているのか、その辺全くわかんないんですよね、放射能放射性物質の区別つけないと。一般人全てがそうするべきとは口が裂けても言えませんが、少なくともマスコミ各位においては、もう少し術語を大切に扱っていただきたいなあ、と。その辺の底上げは必要な時期に来ているんじゃ無いでしょうか今の日本社会は。ぶっちゃけ、セシウム137を「セシウム」、ストロンチウム90を「ストロンチウム」と表記するのだって怠慢だと思いますよ。あ、いや、でももっと厳密に言えば他の放射性同位体との混合物だから「セシウム放射性同位体」とかになっちゃうのか?どうしよう(投げっぱなしで終わる

最後に小咄

そういえば、「人工放射性物質」というとなんだか錬金術で創ったのかよ的な感じしますよね。実際、今日において新元素の発見とは加速器で造って観測、とほぼ同義ですし。「人工放射性元素」といえばやっぱプロメチウムテクネチウムじゃないすか。周期表で中途半端な位置にいるくせに安定同位体が存在しない(尽く放射性核種)というシャイな養殖100%な連中。